24.成田に行きたいんですとぼくは言った

そこで、電車を降りると、駅の外に出た。
自分が今どこにいるのか、まるで見当がつかなかった。
駅を出るとすぐ、のんびりした野原と畑が拡がっていた。
走ってきたタクシーを捕まえてそこに乗り込んだ。
タクシーの運転手はおじいさんと言っていいような歳に見えた。
「あの、成田に行って欲しいんです、
飛行機に乗り遅れそうで・・・」
とぼくは言った。
成田までいくら掛かるのか、聞いてみると2万円くらいなものだろう、とおじいさんは言った。
「で、四時までに着きますか?」
おじいさんはぼくの必死の形相と裏腹にのんびりした顔で
「ああ、大丈夫でしょ。急げばねえ」
と言った。
それから畑の脇の細い道を猛スピードで走り抜けた。
「これは抜け道だからねえ」
とおじいさんは細い道に入るたびに言った。
タクシーの中でリュックに入っているパスポートを何度も指で確認した。
それからお金のことを考えた。
全額で20万円持ってきたのにそのうちの2万円をすでに使おうとしているのである。
これから三ヶ月の旅をしようとしているのにここでこんなに使うのは失敗だったなあと何度も思った。
しかしタクシーは本当に全速力で農道を駆け抜け右に左に大きくその身体を揺すった。
畑のあぜ道を犬を連れた女性がのんびりと歩いているのが見えた。土曜の午後の散歩の時間なのだろう。
(はやくはやくはやく)
とおじいさんの後頭部を見つめながら心の中で呟いていた。

つづく