マンホールの蓋を開けるバイトは横浜に出かけての仕事が多くなった。
それと共に車を運転する人間がいないのでぼくに運転をするように、と社長に言われた。
ぼくは免許は持っているものの大島で高校を卒業する前に取っただけであとは運転をすることもなくペーパードライバーに近い技術しか持っていない。
もし今ここで無理をして事故でも起こしたら中国には行けなくなってしまうなあ、
と心の中で思った。
しかし「他に誰も免許は持っていないんだから君がやるしか、ないじゃないか」
と強く言われると、そうなのか、とも思った。
平野という、九州から来ている男も免許を持っていたのだけれど
彼は「疲れるから嫌だ」と言って運転をしようとはしなかった。
まあ、ぼくのほうが新人でもあるのだし
「頼むよ」と言われ仕方なく運転をすることになった。
しかし運転したからといって、その手当が付くわけではなく、やっぱり嫌だなあと思った。
ときどき夜に疲れて帰ってきて、ホッとした瞬間にまた例の、目の前の風景が自分とはまるで関係のないものに見えてくることがあった。
それでも、やはり自分が見ている風景なのだ、と思ってその闇を見つめた。
闇はいつまでも動かずにそのままぼくの前にあった。
今がいつで、人生のどのあたりにあるのか、自分がなにをしようとしているときなのか、この闇を目の前にするとまるでわからなくなってしまう。
こういうときに誰か電話をくれないかなあ、と電話を見つめた。
しかし、電話はじっとしたままで、まるでこの世のどことも通じていないようかのように、静かだった。
本当に通じているんだろうか?
と思って受話器をとると、「ツー」
という音が聞こえてきた。
それで少し安心をして、ベットに潜りこんだ。 |