21.旅のはじまりが近づいている

そうこうしているうちに中国へ行く日が近づいてきていた。
まずはリュックを買いに行かなければと思った。
リュックといえば? と考えたけれどお茶の水のスキー専門店しか思い浮かばなかった。
今思えば、登山用品店に行けば、旅行用品はなんでも揃うのだ、ということがわかるけど当時は本当になにも知らなかった。
しかしお金はなるべく安くあげようとしていたので小学生が遠足のときに使うようなチャチな、リュックサックを買った。
大きいことは大きくてこんなに物が入って5000円なら、これは良い買い物をした、と思った。
それは横に大きなリュックで、あとでわかったことだけれど中国を旅するバックパッカーで、ぼくのようなリュックを背負っている人は誰一人として見なかった。
しかも、背中にフィットするわけではないので荷物が入るとダランと垂れ下がったようになった。
そうなると重い荷物がすべて肩のベルトに食い込んできて歩いているうちに嫌になってくる。
しかし、はじめのうちはこんなもんだろうと思ってそれを背負っても、何の文句もなかった。
靴はどうしよう? と思ったけれど学生時代に履いていた、ナイキの青いスニーカーをそのまま履いていくことにした。
あとはなんだろう? と思ってそうだフィルムだ、と思った。
カメラはニコンのF3を持っていたので、いつものとおりモノクロフィルムを30本も持てばいいだろうと思った。
バイト先の友人酒井は、飛行機会社はどこなのか?
としつこく訊いてくる。
しかしぼくはそんなことには興味がないので
「知らない」
と答えた。すると
「知らないってアンタ、そんなことで中国いけるの?」
と言った。
だって当日にチケットを持って、成田に行けば飛行機に乗れるのだからそれでいいじゃないか?
とぼくは思った。
しかしチケットはいくら待っても送ってこなかった。
どうなっているんだろう?
とそのことのほうが心配で仕方なかった。

つづく