18.中国を一人で旅する、ということ

バイトと平行して、中国行きの旅支度も始めた。
まず、チケットを買わなければならない。
どうしたらいいのか、まるでわからないので「地球の歩き方」という本を買ってみた。
するとここの編集部で、チケットも手配してくれることがわかった。
まずはビザの要らない香港に入りホテルに一泊する。
それから、深川に行き、朝から待機して中国に入国するためのビザを取ってくれるという。
飛行機は香港の往復で、ぼくは三ヶ月のオープンチケットを予約した。
なにしろ、17年も前の話である。
今でこそ格安チケットというのは常識のようになっているけれど当時はまだ、そんなことを言うと、たいていの人は
「大丈夫なの? 」
と心配をした。
大島の両親もぼくが中国に旅に出かけるというとなんだかひどく心配をして、知り合いに中国の人がいるから、その人に話を聞くように、しつこく勧められた。
その人はぼくも知っている人で、しかし話を聞いても仕方ないんじゃないかなあ、と思った。
旅をするのと、住むのとではまるで違うからである。
しかし、そう言っても両親は納得をせず仕方なくその人と連絡をとって渋谷で会うことにした。
するとその人は家族全員で、やってきた。
ぼくは旅行を前に、食べるものもなるべく切り詰めて生活をしていたので、内心困ったことになったなあ、とその家族を見て思った。
話を聞くのだから、当然こちらが食事代を払わなければならないだろうと思ったからだった。
道玄坂の奥まったうどん屋に皆を誘い、旅のはなしをしてみた。
宿の予約なしで中国をあちこち旅をしたいのだ、とぼくが言うとその家族は
「アイヨー」
と溜息をついて言った。
そんなことができるわけはない、と彼らは口を揃えて言った。
「いや、できるんです。だってこの本にはそう書いてありますよ」
ぼくがそう言って「地球の歩き方 」を見せるとお父さんは胡散臭そうにその本をパラパラとめくり
「谷口さん、あぶないよ、やめたほうがいいですよ」
と言った。しかし、やめてどうなる? とぼくは心の中で呟いた。
みんなのうどん代を払うと一万円ちかくのお金が飛びこれから切り詰めるとなると、あとはなにができるだろう? と皆と別れてから考えた。

つづく