2月中旬の暖かい日の午後、谷口酒造へ工場の見学をしてきました。野増の集落を少し離れた坂の上に工場があります。事務所は一風変わった建物で、屋根に椿の木が立ってます。三代目社長曰く「ツバキ城」と命名したそうです。
まず説明されたのは仕込んだ麦を発酵させる所です。しきりのビニールカーテンをくぐると酸味のある香りと共にBGMが聞こえてきます。
モーツアルトの「レクイエム」で、これを聞かせると味がまろやかになるそうです。
レクイエムを流すスピーカーは三代目の手作りでなんとひょうたんにマウントされて天井にぶらさがってました。
発酵しているタンクには温度管理のため水を流すホースやスポンジシートなどが巻いてあり、その日その日の温度を記録しながら三代目自ら管理するとの事。
次は蒸留場に案内されました。谷口酒造では「減圧式蒸留釜」も使用しており、材料の旨味を逃がさないよう沸点を低くしての蒸留を可能にしました。
富士山の上で蒸留しているようなものです。
その隣では麦と麹菌を混ぜています。器械に入れ回転させまんべんなく混ざるようにしています。
麹菌はとてもデリケートで、普段食べている、納豆の菌にも負けてしまうそうです。
蒸留場の向かいの蔵では熟成が行われています。その眺めは圧巻で、高さが4、5メートルもある琺瑯(ホウロウ)のタンクに入れて焼酎を熟成させます。
最近焼酎をウイスキーに使う樽に入れるのが流行ってるようですが、敢えてそれはやらないと三代目は明言しました。
しかし、ただ伝統を守るだけでない独創性を三代目は持っていました。
ツバキ城に入り、焼酎を試飲する事に。天上、三年古酒、御神火平兵衛と一緒に出されたのはにごりのいも焼酎「いも太郎」でした。日本酒のにごりの様に沈澱せず、全体が白いです。普通のいも焼酎よりさらに甘い香りがして、一口飲むとなめらかな舌触りに驚きました。いもが敬遠されている理由である、においや、きつさがない、といっていいぐらいです。
三代目は誰も作っていない焼酎を作ろうとして初めて仕込んだそうです。
いも太郎の余韻に浸っていると、三代目とその愛犬テツに連れられて御神火の水源地に案内されました。大島の水道水はそのまま飲むと出張族のお腹をこわすくらい不味いのですが、幸いな事に岩から出るわき水を溜めてあり、パイプを通して工場へ送るそうです。飲ませていただいたのですが、無味無臭の純水のような水でした。それだけだと焼酎に使うには水が軟らかいので、同じ伊豆大島産の塩を混ぜているそうです。
ラベルに書かれてない工夫を伺い知る事ができました。
水源のとなりは谷のようになっており、頭上を大きな木々に囲まれてます。三代目は言います。
「それぞれの枝は隣の木の枝と重ならず葉を出している。」
なるほど、お互いぶつかる事なく伸びてゆく木の方が人より賢いのかもしれないです。
工場を見学して、作り手の焼酎に対する真摯な姿勢と、元来「島の生活に根ざした」焼酎の奥深さを勉強する事が出来ました。
これからは焼酎がさらにおいしく味わえると思います。