バイトは次の日から始まった。
アパートは練馬にあったのでそこから駒沢まで、電車に乗って出かけた。
西武池袋線は朝のラッシュで驚くほど混んでいてはじめに来た電車に乗ることはできなかった。
が、二回目に来た電車にも乗れそうに、なかった。
しかし、これではいつまで経っても池袋に行けそうにない。
仕方なくぎゅうぎゅう詰めの電車に無理を承知で入った。
するとハイヒールを履いた女性に足を思い切り踏まれた。
ぼくが履いていたのは横浜の中華街で買った黒い薄っぺらのカンフーシューズで、骨が折れるんじゃないか、と思うくらい痛かった。
しかし女性は気が付かないのかいつまでも足をどけない。
ぼくの足を踏んでいることに気が付いているのかどうかもよくわからない。
電車は満員なので、この足が誰なのかさえ、わからなかった。
大学時代は会社の寮にいたので、通勤ラッシュを経験したことがなかったのだ。
バイトとはいえ、大変だなあ、と思った。
しかし今の問題は足の上に載ったハイヒールの先である。
必死になって足を動かすと、今度は目の前の女性に睨まれる。
とにかく中国に行くまでの二ヶ月は、この通勤ラッシュに耐えなければならないのだろう。
カンフーシューズを履くのはもうやめよう、と思った。 |